【あらすじ】

舞台はニューオリンズ。ザックとジャックが、

それぞれ警察がらみの罠にひっかかってOPP刑務所の

同じ房に入れられる。そこに不思議な仲間、

イタリア人旅行者のロベルトが加わって、

脱獄からどことも知れぬどこかへ、

3人は地獄とも天国ともつかぬ冒険の旅を重ねてゆく……。

(allcinemaより)



【感想】

ますらをさんが観たジムジャームッシュ作品第3弾。

『ストレンジャー・ザン・パラダイス』と比べると、

終盤のいつ終ってもおかしくない、

それでいて続いても不思議ではないという不安定感が

安心して観たい人には難点かもしれないなあと思った。

けれどもこれはこれ。

『ストレンジャー・ザン・パラダイス』での名声に隠れがち、

という評をどこかで見かけたけど、また違った味があって

個人的には推したい作品です。


役所広司や鈴木京香が三谷作品に好まれるが如く、

ジャームッシュ作品に多数出演するメインの3人がとても良いです。

『ストレンジャー・ザン・パラダイス』でもそうだったのだけど、

ジムジャームッシュは3者間の関係を描くのが上手いなあと思わされた。

この辺は、『コーヒー&シガレッツ』の「双子」や「幻覚」にも遺憾なく発揮されている。

というかむしろ、短編だからこそ彼の持ち味が凝縮されていたと言って良いと思う。

同種の2に対して異種の1を混ぜた関係性。

そこに血、性別、生業、人種、言葉をうまく絡ませるのがジャームッシュなのかなあ。

まだ全てを観た訳ではないのでおぼろげではあるけれど、そんなことを思った。

そう考えると、『ストレンジャー・・・』ではそれがスイッチする面白さがあったのか。

境界線をスライドさせることによって、ウィリーとエヴァ対エディという関係性と

ウィリーとエディ対エヴァという関係性を描いていた気がする。

彼の作品が後からじわじわと考えさせられたり、面白さが沁みてきたりするのは、

このあたりの仕掛けにも秘密があるのかもしれない。

うーん・・・話がちょっと逸れたので、『ダウン・バイ・ロー』に戻そう。


ヒロイン不在と言ってよい本作。

よって誰について語るか迷ってもよかったのだけど、

即断でロバルト・デニーニをチョイスしちゃいました。

『ライフ・イズ・ビューティフル』では私の涙をさらった彼。

けれどもジャームッシュ作品に出演するデニーニを観ていると、

挙動不審な人をやらせて彼に勝る人なし!とか思う。

彼が不自由な英語で一生懸命何かを語ろうとするシーンが好き。

特に泳げない彼が川の前で置き去りにされたシーンの独り言と

捕らえたウサギを一人丸焼きにしながらブツブツ呟いているシーンがよかった。

周りに誰もいなくなっても不器用に英語を使う彼が微笑ましいような、

けれども挙動不審ぶりとその発言内容が合わさってシュールにも感じられて。

勿論ザックとジャックとの掛け合わせも面白く、

思わず笑いがもれたシーンも沢山あった。

何度もジャックとザックの間を往復してタバコと火をもらおうとする彼が、

その度に名前を逆に呼んでつっこまれるの牢屋のエピソードとかね。


どちらかと言うと我も強いジャックとザックの間を取りなして、

リアリストである2人に楽観的な要素もたらす役目を果たすロベルトなのだけど、

彼の空気を読まない天真爛漫さは単純に長所や救いという描かれ方はしていない。

むしろどことなく病的にも哀れにも見える。

それでもそこに不思議と同情は生まれないのだよね。うーん。

やっぱり彼を形容するのには不審とか不思議が一番しっくりくる言葉で、

考えれば考えるほどはまってるなあ、とちょっと悔しい気持ちになった。


ちっともまとまらなかったけど、まあ色々考えてみたって感じでしょうか。

機会があればまた他の作品も観たい監督です。